昔の話
「ゲゲゲの鬼太郎」水木しげるさんの妖怪ワールド
「ゲゲゲの鬼太郎」の原作者の水木しげるさん(85)の事務所に足を踏み入れると、そこはもう、鬼太郎ワールドそのもの。小さな人形やポスターなどがゴマンと並ぶ。
「子どものころ、ランプやあんどんが当たり前だった。明るさの具合が、おばけのムードにいいんですよ。電気の光じゃ、そういう雰囲気は出ない。
人間の目に見えないからといって、存在しないわけじゃない。いるんですよ。それを『のんのんばあ』が、分かりやすく解説してくれたものでね」
のんのんばあとは、水木さんの実家近くに暮らしてたおばあさんのこと。
例えば、夕方、人けのない荒れ寺から聞こえてくる鐘の音は「野寺坊(のでらぼう)というのが来て鐘を鳴らすのだ」とひとくさり。またある時、水木さんが廃屋をのぞこうとしたら、のんのんばあに止められた。「ああいう所には『白うねり』という古ぞうきんのおばけがいて、首にからみつくから、のぞいちゃあいけん」
風呂おけに付いた湯あかをなめる「あかなめ」というおばけが来ないよう、水木さんも風呂おけを磨いた。「妖怪は妖怪を招くから、さまざまな妖怪が家にすみつくことになる」というのが、のんのんばあの理屈だった。
よくよく考えてみると、いずれのおばけも子どものしつけに一役買っている。野寺坊は「夜遊びしないで早く家に帰りなさい」という意味だし、白うねりも「廃屋は危ないから近寄るな」という禁忌。あかなめも「家の手伝いを怠けちゃいけない」と諭すには格好のおばけだ。こんなふうに、昔は近所に物知りのおじいさん、おばあさんがいて、子どもの相手をしながら人の道や世の中の決まり事を教えてくれた。
「昔は、おばけに対する恐怖心を利用し子どもを教育したもんだけど、電気の明かりじゃ、そんなこともできませんね」
「ぼくは子どものころ、遊ぶことに忙しくて、勉強なんかさっぱり。でもね、遊びの中にこそ、いろいろ教わることが多い。勉強ばかりしてないで、子どもは遊べ、遊べ」
(毎日新聞より)
お金はないけど、時間とムードがたっぷりあった昔。
お金はできたけれど、時間に追われる現代。
どちらが良いとは言えないけれど、子どもが伸び伸び育つ環境であってほしい。